刀剣嫌いな少年の話 拾漆(完)


   ***

 敵は、大柄だった。

 この表現もいささか語弊がある。大男……巨躯……巨人、は言い過ぎだろうか。とにかく、大太刀を携える歴史修正主義者よりもはるかに大きい、禍々しい化け物はそこにいた。太すぎる腕、黒い肌に浮かび上がっている生々しい血管。口の端からは長すぎる牙が覗いており、目には妖しく獰猛な光が宿る。頭に生えた角、体には落ち武者を思わせるボロボロの鎧を纏い、腰には重そうな麻布の巾着袋を提げている。動き回るたび、それらがガシャガシャとうるさい音を立てた。
 全身から迸る瘴気と穢れは、他の歴史修正主義者とは比べものにならない強さ。この敵がいることで、空気は黒く淀み、息苦しささえ覚えた。

 しかも、背に負っている得物は太刀や薙刀、大太刀、槍と、かつて見た事はない量だ。その場に応じて構えるものを変えてくるので、この化け物が果たしてどの類に属するのか、皆目見当がつかない有様だった。

 そんな敵の視線は、前にしか注がれていない。周囲に立っている刀剣男士は三人。彼らに意識が集中しているとみていい。実際、何度も斬りかかられたりする度に刀で受け流している。こちらに一切視線は向かない。
 ちら、と緑と青の美しい目で合図を送ってきたのは、己の兄。

 好機。

 最大限気配を殺していた、青髪の小さく細身な子供は、高い木の上から空中へと身を躍らせる。そして、長年、復讐の想いが乗せられた僅かな反りのある短刀を振りかざしたのは、小夜左文字だ。
 刃の到達点は、化け物の首。どれだけ人外な姿をしていたところで、きっと急所はそこだと信じていた。

「!!!」

 ぼこぼこ、めきめき、と泡を吹く音がする。――否、音だけではない。実際に、泡立っているのが小夜には見えた。
 三白眼を驚愕に見開く。敵の首筋に大きな吹出物が出てきたかと思えば、萎み、膨らみ、ばちんと弾け……そこから、頭がもう一つ現れた。

 現れた頭は、はっきりと小夜の方を向いている。
 あまりのことに、ひゅっと、変な息の吸い方をした途端、

「ぐっ、あ!?」

 大きな掌が横合いから飛んできて、まるで蠅にするように叩き落された。

「お小夜!!」
「宗三、小夜を回収しろ!」

 かなりの衝撃だったらしく、積雪の中に叩きつけられた小夜が起き上がれないで呻く。
 一度は炎に包まれ、再刃された打刀を片手に、桃色の袈裟を纏った美男子・宗三左文字が走る。
 その彼に注意が向かないよう、せいぜい派手に、捨て身の攻撃を仕掛ける刀剣男士が一人。長めの切っ先と細かい焼きが見られる刃文を持つ打刀を持つ彼は、臆することなく敵の正面に入り込む。聖職者を思わせるような服装を纏ったへし切長谷部は、殺意の宿した藤色の瞳で高い位置にある敵の二つの顔を睨んだ。

「そうだ、こっちだ!」

 敵の意識は完全に小夜から外れ、こちらに向いた。
 長谷部の動きは、短刀顔負けの速さがある。防御も考えないで近づいてきた彼の動きなど、捉えることは難しいはずだ。敵の目はこちらに向いていたが、相手が動き出すより早く大きく振りかぶった刀を、全力で振り下ろす。
 彼の刃は敵の腕に届いた。肉と骨を断つ感触を間違うはずなどなく、実際に敵の肘から先が、重々しい音を立てながら雪の上に落下したのが見えた。

 ――そして、肘の断面から新しい手が生えるのも、同時に見えた。

「なっ……!?」
「長谷部くん、危ない!」

 後ろから伸びてきた黒手袋が、長谷部の襟首を掴むと勢いよく後ろへ引っ張った。
 突然気道が塞がって顔を顰めた打刀の彼だったが、敵の太刀が前髪を掠めていったのを見て、まさに間一髪の状況を改めて理解する。

「はあっ!」

 気合いの声を叫び、追撃しようとする相手の刃を向かい打たんとしたのは、青銅の燭台をも両断した鋭い切れ味を誇る太刀を手にした、眼帯の伊達男・燭台切光忠である。
 刃と刃がぶつかり大きな音が響いた。燭台切の腕はびりびりと強く痺れたが、何とか敵の攻撃を弾き返せた。
 宗三も小夜を抱え、敵の攻撃範囲から外に出ているのが見えた。気を惹きつけるための動きをしていた長谷部と共に、一旦後方へと下がり敵から間合いを取る。

「すまない、燭台切。助かった」
「気にしないで。ああでもしないと、小夜ちゃんと宗三くんがやられていたよ」
「ただ馬鹿力にも程がある。首が締まって死ぬかと」
「ごめん、さすがにあの状況じゃ僕も加減ができなくて」

 呼吸は細切れだ。頻りに口から洩れ、真っ白に塗られていく息が煩わしい。

「お小夜、大丈夫ですか?」
「……っ……大、丈夫……ありがとう、宗三兄様」

 抱えられていた小夜も、宗三に下ろされるとすぐに短刀を構えなおした。鼻から垂れている血を指で拭い、敵を睨む。
 宗三も、立っている化け物を見た。手に持っているものが太刀ならば、この距離を保っていれば攻撃は届かない。

「一体、何なんだこいつは……!」

 長谷部が忌々し気に呟く。

 彼らが本丸の庭に転送されてきてから、かなりの数の歴史修正主義者を屠ったはずだ。少年と繋がれた〝糸〟で、長谷部をはじめ士気も上がり、順調に数を減らしていたはずだった。
 突如現れた敵の気配は強いもので、微妙に長谷部たちがいた地点から外れていた。しかし、それが審神者部屋の正面の庭であり急ぐ必要があると考えたこと、近い地点で戦っている自分たちが駆け付けるのも一番早いだろうことの二点を根拠に、急ぎ発生源へと向かったのだが……

「酷い瘴気です……およそ単体の歴史修正主義者から出てるものとは思えませんね……」

 見つけた敵は、薙刀を構える歴史修正主義者が着ている白拍子の装束に、山姥切国広が纏っているような襤褸を頭の上から纏って顔を隠した姿だった。この時点では、薙刀どころか得物一つ持っていないように見受けられた。
 攻撃をしても躱すだけ。武器がないのだから向こうから攻撃をしてこようはずもない。気配ばかりが強くて、視覚的には脅威には見えなかった。

「頭が二つ……もしかしたら、本当に単体ではないのかも……」

 ぽつりと、小夜が冷静な見解を示す。

 状況が変わったのは、他の場所で戦っていたであろう歴史修正主義者がこちらに集まってきて、再び多数の戦闘が繰り広げられ始めたときのことだ。
 顔を隠した謎の敵が、白拍子を開いた。露出した胸の部位には、赤とも青とも、紫とも黄色ともとれる、様々な色が出鱈目に混ざった光球があった。そこから正体不明の真っ黒な煙が噴き出し、周囲に集まりつつあった敵が次々に飲み込まれていったのだ。飲み込まれた歴史修正主義者は、強烈な断末魔を上げ、肉や骨を断つ音を響かせた。
 煙が晴れたとき、顔を隠した敵は、恐ろしい大きさの化け物に変貌していた。歪な色をした光球は、分厚い黒肌に覆われて見えなくなった。多様な得物もそのときに突然、敵の背中に現れたものだ。

「味方の歴史修正主義者を吸収してる……?」
「……そういえば、さっき腕が生えた時も、生き物が絡み合うような具合で腕の姿を作っていた気がするな。あれが敵の短刀だったのではないかと聞かれれば、そうだったかもしれないと言える程度には」

 思わずといった様子で呟いた燭台切に、長谷部が答える。
 そもそも歴史修正主義者なのかどうかすら分からない。もしそうなのだとしたら、上がっていた叫び声からして、この化け物は無理矢理仲間を吸収したということになる。
 燭台切は、歯を食いしばり、柄を握る手に力を込めた。

「落ち着け、燭台切」

 長谷部が敵を見据えたまま、言う。

「敵に同情してどうする。ここでまた堕ちたらさすがに俺はお前を斬り捨てるぞ」
「……分かってるよ。大丈夫。……っていうか、僕も堕ち切ってたわけではないからね?」

 少年に丁寧に穢れを祓ってもらった身である。そう簡単に再び染まることなど有り得ないと分かっている上での、長谷部の軽口だ。
 だが、仲間を殺し、その吸収した仲間を材料に己を再生するというのは、たとえ相容れない相手の話だったとしても気分の良いものではない。

「……! 長谷部さん、燭台切さん!」

 小夜が叫んだ。二人の頭上から、凄まじい勢いで降ってくるのは、目をぎらつかせた歴史修正主義者。短刀を咥えている。

「遅い!!」

 怒鳴った長谷部が下から一気に刀を振り上げ、両断する。速さでは敵わない燭台切は、ここは彼に全面的に任せた。
 だが、顔を上げた途端、息を呑む。
 化け物が、こちらに指を向けている。燭台切の隻眼に映ったのはそれだけでなく、指先に光るのは……まるで、目、のような――

(まさか――!?)

 考えるより先に、燭台切の本能は己の刀を振り上げさせた。
 太い指が眩く光り、そこから、ぼろぼろの骨の化身となった敵苦無が飛び出してきた。殺意の籠った鳴き声を上げ、本来のスピードよりも速く眼帯の刀剣男士に迫る。
 幸い、先に動きを見せていた燭台切の刃の方が速く、ぎりぎりのタイミングで敵苦無を断ち切る。だが、狙いを定めて振り下ろしたとは言えず、ほとんどまぐれだ。

「無事ですか!?」

 刀で敵を牽制しながら叫んでくる宗三に、頷きで答える。
 この化け物は、どうやら吸収した敵を自由に放出する力も持っているらしい。とすれば、体内に果たして何体の歴史修正主義者を抱えているのか。
 視覚的には一体の敵、だが大量の敵の集合体だと考えると、戦い方も変える必要がある。更に、燭台切の感覚では、化け物から出てきた敵は常よりもはるかに硬かった。相手は瞬間的に身を捻り、燭台切の斬撃を弾き返そうとしたのだろう。そんな芸当ができる敵苦無は、あまりいない。
 細かい事は考えずに力任せに振り下ろした刀だったからこそ断ち切ることができたが、柄を通して感じた掌の痺れが若干無理をしたことを己に報せている。

「もしかしたら、吸収して自分のものにするだけじゃなくて、体の中でその吸収した歴史修正主義者を強化してるかもしれない」
「ははっ。吸収された敵の数なんか覚えていないぞ」

 燭台切が口にした仮定の話は、いい加減に弾き出された推測ではないと理解できる。その上で、長谷部は乾いた笑いを出してから、顔を顰めた。
 もしそれが事実だったなら、と奥歯を噛む彼らの思考をそのまま言葉にしたのは宗三だ。

「さっき呆然と見守っていたときだけで考えても、目分量からいってこの辺一帯の敵全てですから……僕たちは四人で百体くらいの敵を相手にしていることになるでしょうか? ……まあ」

 オッドアイを細め、細い眉を寄せる。

「言ったそばから、あの方、また吸収してますけど」

 隣に、後ろに、上空に。
 化け物に近づいた敵の数がある程度揃うと、再び黒い煙が溢れだし、一瞬にして取り込まれていく。その度に耳を塞ぎたくなるような叫び声が迸るが、自ら近づいて行っている時点で、化け物と敵対関係にあるわけではないのだろう。

「四人で、腕と足を奪うぞ」

 四肢の動きを封じること。そうすれば敵は反撃の手段を失う。

「すぐに新しい腕や足が生えてしまうけれど……」
「そんなことは分かっている。生える隙を与える前に続けて斬るだけだ」

 小夜が付け足してきたのに対し、長谷部は力強く言い切った。
 警戒ばかりしていても事態は好転しない。危険だと分かっていても攻めないことには、勝手に敵は倒れることはないのだ。

「行くぞ! 俺に続け!」

 へし切長谷部は、右腕に狙いを定め、速攻を仕掛ける。その後ろから燭台切光忠が走り、右足に向けて刃を振るわんと柄を握る。逆方向から機動の高い小夜左文字が猛進し、左腕の腱を落とすべく短刀を構える。宗三左文字も軽やかな動きで雪を蹴り上げ、前傾姿勢で飛び込んでいく先は左足だ。

 太刀を持つ化け物は、どっしりと構えていて抵抗する動きも見せない。
 四人の刀剣男士が、人間離れした動きで肉薄する。四方から、とてつもない殺気に包まれたはずだ。
 だが、それは刀剣男士側も同じだった。傍に寄っただけで、化け物から感じられる恐ろしい威圧と殺気。何より、規格外の大きさに一瞬でも気圧される。

「圧し斬る!」
「防御すら、させないよ!」
「容赦は、しない!」
「くらいなさい!」

 打刀二口、太刀一口、短刀一口。
 合計四口の鋭い刃が、化け物の四肢に向けて振るわれ、躱されることもなく狙い通りに炸裂した。

 ……ところが、信じがたいことが起きた。

 息を呑んだのは、斬撃を放った全員。彼らの刃は、一口たりとも化け物の肌を抉らなかった。刃は辿り着いているのに、傷をつけることすら叶っていない。
 肌から突然顔を出した、それぞれと同じ刀種の刃に阻まれていたからだ。

(体内にいる敵が、狙われた部位を護っている……!?)

 何が起きているのか、一瞬で皆の頭に推測が駆け巡る。
 その一瞬の思考が隙となった。即座に飛び離れていれば間に合っただろうが、化け物の体から黒い煙が噴き出し、斬りかかっていた四人は全身に浴びた。思わず顰められた顔が、さっと青ざめる。
 体が痺れて、動けない。

(まずいっ……!)

 長谷部が目線だけで後の三人を確認するが、同じ状況だった。
 敵がにたりと笑った気がする。余裕を見せつけているのか、動けなくなった刀剣男士を握っている太刀で斬りつけようと、動き始めた。

 そこへ、

「小夜! 宗三さん!」

 鋭く声が飛ぶ。けたたましい足音が四つ。彼らならもっと気配を殺すことが可能だが、注意を惹き付けるためにわざと音を立てているのだろう。
 案の定、化け物はゆっくりとそちらに視線を向けた。
 駆けてくるのは、後藤、今剣、鶴丸、大倶利伽羅だ。

「悪い、手荒いぜ!」
「ばびゅーん!!」

 後藤が乱暴に宗三の腕を掴み、勢いよく引っ張る。
 風のような速さで走った今剣が小夜を後ろから両手で抱きかかえ、跳ねるようにして後方へ避難。

「驚いてもらおうか、ってなぁ! 下がるぞ光坊!」
「世話の焼ける……」

 近場にいる敵――恐らく、化け物に吸収されようと近づいてきていた――を両断しながら近づいた鶴丸は、片腕を伸ばして燭台切の上半身を抱え込み飛び離れる。
 長谷部の後方に入り込んだ大倶利伽羅が、襟首を掴んで力任せに引っ張った。

 動けなくなっていた四人がその場を離れてすぐ、化け物は巨躯を回転させ、太刀で周囲を丸く描くように振るったが、誰の体を両断することもなく空振りに終わる。
 余裕を見せたからなのか、元々そんな程度なのか、とにかく動きが緩かったおかげでぎりぎり間に合った。

「おぉ、危なかったな……」

 息を吐いて呟いてから、鶴丸は燭台切の様子をうかがう。……同時に、表情を歪めた。化け物から離れたものの、体に黒い煙が纏わりつき、彼自身の体の痺れは取れていない様子だ。口も上手く動かせないのか、隻眼で「ありがとう」と伝えてきているのが辛うじて分かった。

「光坊、少し休んでいろ」

 しばらく燭台切が動くのは無理だと判断し、白い太刀は彼を背に庇い、立つ。
 しかし、金色の瞳がゆっくりと見開かれる。両手で刀の柄を握ろうとした左手が、動かない。恐る恐る、体の横に垂れている左腕を見下ろした。

「……こいつは驚いた……」

 腕に掠った程度だったと思う。だが、左腕には黒く細い煙が絡むように揺蕩っており、指先からどんどん感覚を奪っていた。
 これを全身に浴びた彼らは、と見回して確認してみると、膝をついた体勢から首を垂らし、地面に沈み込みそうになっている状態だった。
 もう一度、後ろの燭台切を振り向く。こちらを見上げることはできないようで、彼も顔を下に向けていた。肩が震えているので、腕を突っ張って懸命に倒れ伏すのを堪えているようだが、長くもちそうにない。

「あいつ……」

 突如、大倶利伽羅が、呆然と呟いた。
 後ろで這いつくばりそうになりながらも抗っている長谷部を背に、彼は化け物に釘付けになっている。怪訝そうに眉を寄せた鶴丸が、問い返す。

「どうした、伽羅坊」
「……」
「……きみは? 黒い煙、被ったのかい」

 歯ぎしりしながらも答えない大倶利伽羅に、重ねて問いかける。彼は鶴丸の方に向き直った。その片方の目が、真っ黒に染まっていて、ぎょっとする。

「伽羅坊……」
「顔に少し被った」

 焦点が合っていない。
 燭台切のように隻眼に慣れていればまだしも、普段は両目が見える者が片目を失うと、一気に遠近感覚を失う。

「問題ない。やれる」

 自分に言い聞かせるように、大倶利伽羅は短く呟いた。

 短刀二人も、黒い煙による被害があった。
 今剣は肩を抑えて顔を顰めており、後藤は手首を抑えていた。何しろ、固体でも液体でもなく、気体なのだ。間近まで迫って一切掠らない方が至難の業である。

「どうしますか。これでは、へたにちかづくこともできません」
「宗三さんたちもやばいぜ、このままじゃ」

 黒い煙に、どんどん蝕まれていく。
 焦りを覚えているのをまるで嘲笑うかのように、化け物が動き出す。

「構えろ」
「くそ、考えている暇はそうくれねえよなぁ」

 歯噛みしながら、大倶利伽羅に倣い、鶴丸、今剣、後藤も刀を構える。
 一歩前に、こちらに足を進めた。ずしん、と地面が揺れ動く。負ける気はないが、それでも、どれだけしんどい戦いになるだろうかと思いかけた。

 そこで、鶴丸がはっとする。……否、はっとしたのは、その場にいた全員だ。

 視界が、一気に明るくなったような感覚になる。気持ちが、ぶわりと膨れ上がる。嬉しいとも逞しいとも、希望だとも、どの表現も適切ではない。
 ただ、そこにある気持ちの中核を担うのは、絶対的な〝信頼〟。

 そう。
 彼らは頭の中に、一本の線が通っているのを感じていた。それらを全てしっかりとつかんで、決して離さないようにしながら引っ張る。一気に手繰る様に、勢いよく近づいてくる。

「主、貼ったよ!」

 茂みから飛び出した、加州。

「審神者さん、こっちもいける!」

 反対側の茂みから出てきた大和守。

「準備完了だ、大将!」

 池の傍にある木の上から飛び降りた、薬研。

「やっちまえ! 主!!!」

 本丸の屋根の上から躍り出た、獅子王。

 方々から聞こえてきた声に、化け物は何事かと足を止めた。