刀剣嫌いな少年の話 拾漆(完)


 刀剣男士は消耗品だ。

 あの男は、そう言った。
 俺を拾ってくれた人だったから、ずっと恩を感じていたけど、多分初めての喧嘩をしたきっかけになった言葉だ。……今思うと、怒ってたのは俺ばっかりで、爺さんはひたすら俺を宥めるみたいに静かに話してた気が、しないでもないけど。

 重傷を負って帰ってきた奴を手入れした後、「無理に進軍させたからあんな怪我を負ったんだ」と爺さんを詰ったら、そんな風に返ってきた。
 俺は、本丸にいる刀剣男士がいなくなるなんて考えたくなかったから、どうしても聞き捨てならなかった。

『忘れるな坊主。俺達がやってるのは戦争だ。審神者は刀剣男士を顕現する力を持つ者。失われた戦力は補充し、歴史修正主義者を迎え撃つことが、俺達の役割だ。仲良しごっこするために刀剣男士といるわけじゃねえ』

 仲良しごっこ、という表現に眩暈がした。

『どうしても護らなきゃならんもんがある時、そのために命をかけなきゃならねえこともある。俺だってそうだ。必要ならこんな命くれてやらァ。これは俺の信念ともいえる。だから、死んでも良いから守り抜けって主命を、連中に出すこともあるかもしれない。坊主にぎゃあぎゃあ泣きわめかれてもな』

 俯いて、膝の上の拳を強く握りしめる。悔しいやら悲しいやら軽蔑するやらで、俺の視界はぐにゃぐにゃ歪んで、目の縁が熱かった。
 口調こそ荒いけど、優しいと思っていた。こんなに薄情な審神者だなんて思わなかった、最低だ――そう口走りそうになったとき、「最低だよな」と爺さんは言った。
 心を見透かされたのかと思ってぎょっとした。
 顔を上げた先に見えたのは、目を細めて笑うクソジジイだった。自嘲的な笑い方だった。
 

『俺は元々政府の役人だ。……歴史を護る中核を担う組織の人間だったから、こんな風にしか考えられねえんだろうよ。役人だった頃、俺はどっちかっていうと頭の固い部類だった。自分で、分かってんだ』
『あんたは今は審神者だろっ。役人の頃の考えなんて捨てちまえ!』
『俺の人生を堂々と否定すんな。役人だった俺も含め〝俺〟なんだよ。従って、考えを改める気は一切ねえ』

 クソジジイが言い切ったのが腹立たしかった。

『だから、もし坊主がいつか審神者になる日が来たら』
『審神者になんかならねえよ』
『いいから聞け。未来は分からん』

 本丸に審神者は二人もいらないのは当然、知っていた。どれだけ審神者の素質があるって言われたって、俺は……ここに、いたかった。
 怒られるかと思ったけど、爺さんは軽く笑いながら続けた。

『もし、坊主がいつか審神者になる日が来たら……俺の信念なんか忘れろ。坊主は坊主の信念を貫き通せ。そして、そういう主命を出してやれ』

 ――俺が思うに、

「どんだけ無様で、格好悪くてみっともなくて、めちゃくちゃで、目も当てられないような有様でも、何でもいい!!」

 ――きっと坊主の主命に、そこにいる刀剣男士は。
 ――全力で答えてくれるぜ。

「死ぬ気で全員生き残れ!!!!」