刀剣嫌いな少年の話 拾漆(完)
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鶯が鳴いているのが聞こえる。
庭を彩るのは、満開の桜。優しい陽射しが庭全体を眩しく照らして、池の水面は美しく輝いていた。
一人の青年が立っている。
黒い袴に、若草色の着物を着て、首には赤みがかった藤色の襟巻を巻いている。背中の中頃まである長い黒髪は、白いぽんぽんのついたヘアゴムで一つに括っていた。
そんな彼の手には、三通の手紙が握られている。
青年の視線が、目の前にある木に注がれる。庭の中でも最も大きな、桜だ。
木の幹には、沢山の刀剣男士の銘が刻まれている。彼らは、ここでずっと眠っているのだ。
今日は、特別な日だった。だから、ここで待っている。
「主」
後ろから、足音がした。
青年は振り向く。
「更に強くなって帰ってきたぜ」
編み笠と、身に纏った旅装束を取り払う。
新たな装いを見せつけながら、青年の〝はじまりの刀〟は高らかに言った。
「新獅子王、見・参!!」
「何が新なの。いつも通りの獅子王だろ」
「ひっでー! 帰ってきて早々それかよ!? 本当に強くなったんだって!」
「あーそ。じゃあそれは次の出陣で見せてくれ」
「よっし! 望むところだぜ!」
「獅子王」
「うん?」
青年は灰色の目を細めて、手を差し出した。
「おかえり。改めて、これからも宜しく」
〝はじまりの刀〟は、歯を見せて笑いながら青年の手を握り返す。
そこにあるのは小さな手ではなく、成長して大きくなった手だ。それでも何も変わらない。
「おう! この獅子王様に任せろってんだ!!」
あたたかな風が吹く。
桜の花弁がきらきらと輝きながら、鮮やかな青空へと舞い上がった。
――刀剣好きな少年の話
――完