刀剣嫌いな少年の話 拾漆(完)


 一人の刀剣男士の姿が、粉々になって、崩れ去っていく。所在なさげな煙が一つ、立つ。
 誰かが、「獅子王!」と怒鳴るのが聞こえた。だが誰の声か判別などできない。少年の頭の中を、凄まじい勢いで金色の太刀との記憶が駆け巡っていく。
 初めて会話したとき、血まみれのくせに自分を監視してうろうろしていた獅子王を。急に手入れをしてくれと言ってきて混乱した日を。次から次へと刀剣男士が周囲に増えていつでも信頼しろと笑っていた、彼の姿を。

 最後に、先ほどの、獅子王の笑顔を思い出した。
 ずっと少年は、獅子王のことを信頼していた。

 だから……潤んだ視界で、絶対に目を逸らすようなことはせず。
 少年は叫んだ。

「いけ!!!!! 獅子王!!!!」

 金色の輪が二つ、敵の体の上に舞い降り、回転し、眩い光を放つ。
 その光に飲み込まれた刀剣の破片が、一瞬にして再び形を変えていく――そして。

「任せとけ! 主!!!」

 すべての傷が修復された太刀・獅子王が現れ、光の粉を体に纏ったまま、得意げに笑む。続けて、叫んだ。

「これで終わりだ! 必殺剣!!」

 勢いよく振り下ろされた、太刀〝獅子王〟。
 その刃をまともに受けた歪な色の光球は、先と同じように針を出すことも叶わず、抗う様に何度も光り、瞬き、震えた。
 化け物の巨体が大きく仰け反り、苦しみを体現するように暴れる。その動きに巻き込まれないよう、刀剣男士らは大きく飛び退った。

 やがて――怒りも憎しみも、悲しみも、戸惑いも。否、体内にいる全ての歴修正主義者が同時に泣き叫んでいるかのような雄叫びを何度も上げながら、巨大な化け物はその体を次第に靄に変えて、消滅していった。